僕に点字を教えてくださった全盲の先生が亡くなられた。
先生はぬくもりのある厳しさを持っておられた。
手を抜くことは許してくださらなかった。
でもつまずきそうになったら励ましてくださった。
マンツウマンの授業を繰り返しながら少しずつ点字が読めるようになっていった。
先生はいろんな話をしてくださった。
ひょっとしたら、
見えないで生きるということを伝えようとしてくださっていたのかもしれない。
いつも豪快に笑っておられた。
先生の失明原因を知ったのは随分後だった。
思春期の少女が通り魔事件の被害者として光を失うということがどんなことなのか、
僕には想像することも理解することもできなかった。
薄っぺらな言葉は同情につながりそうで僕は何も言えなかった。
先生と二人ぼっちの教室で共有した時間は僕の感情を変化させていった。
いつの間にか生きていく命の美しさを感じるようになっていった。
僕もそんな風に生きていきたいと願うようになっていった。
棺の中の先生はいつものサングラスをはずしておられた。
そして微笑んでおられた。
何が幸せで何が不幸せなのかそんなことは誰にも決められない。
もし決められるとすれば、それは最後の瞬間の自分自身なのだろう。
僕もその時に微笑んでいたい。
先生、ありがとうございました。
(2017年3月21日)