先輩は僕より一回りくらい年上だった。
わざわざ明石市から加古川市の講演会場まで足を運んでくださった。
初対面のような気がしなかったのは僕の本を幾度も読んだとおっしゃってくださった
からだろう。
僕達は地域も年齢も違うけれど40歳くらいで失明したというのが共通点だった。
忍び寄る失明という恐怖の中で、
大好きだったそれまでの仕事に断腸の思いでピリオドを打った。
働き盛りで家族も養わなければならないという現実も襲い掛かった。
先輩は生きていくためにマッサージ師という職業を選択された。
僕は別の道を選択した。
その頃を僕達はそっと振り返った。
お互いに精一杯生きてきた時間がそこにあった。
「僕達がこうして頑張れたのは僕達の前を歩いてくださった先輩達のお蔭だね。
そして僕達も後輩達の前を歩いている。
穴ぼこだらけの道の穴を1人でひとつ埋めることができれば、
いつか道はよくなっていく。」
先輩は淡々とそして噛みしめるようにおっしゃった。
僕は握手をお願いした。
僕達はお互いの顔さえ見ることはできない。
けれども同じ未来を見つめて生きてきたのも、
これからも歩き続けようとしているのも間違いないことだった。
「先生、日本中を飛び回ってください。
また続きも書いてください。」
僕は先生ではない。
でもそんな表現に固執する気にもならなかった。
先輩の手からの激励をしっかりと握りしめて、
これからの活動を頑張りたいと思った。
(2017年3月5日)