阪急烏丸駅から地下鉄四条駅へ繋がる点字ブロックの上で僕は立ちつくした。
つい数十秒前まではいつものように軽快に歩いていた。
点字ブロックの端を白杖の先で触りながらリズミカルに歩いていた。
歩きながら一瞬何か考え事をしてしまったのだと思う。
気づいた時には自分がどの地点にいるか判らなくなってしまっていた。
いつもの場所、何百回もいや何千回も歩いている場所、
そこで迷子状態になってしまったのが情けなかった。
悔しかった。
耳を澄ませても音だけでは解決できそうになかった。
手がかりになる階段までバックしようかと思ったところで、
「何かお手伝いしましょうか?」
若い女性の声がした。
「僕は今迷子状態です。四条駅の反対側まで行きたいのです。
多分、改札口の左側に通路があると思うのです。」
僕は必至で伝えようとした。
必死さが伝わってしまったのだろう。
「地下鉄の北改札口ではなくて南改札口に行きたいということですね。」
聡明そうな彼女は笑顔でゆっくりと答えた。
その笑顔を感じた瞬間、僕の力みが消えた気がした。
僕は彼女の肘を借りて通路の入口まで移動した。
たった数メートルだった。
これが解決できないのが見えないということなのだ。
いつもは忘れて生活しているのだろう。
見えないということを自覚した時はやっぱり寂しい。
実際落ち込みかけていた。
それがたった数分間の人間同士のやりとりで笑顔にまでなってしまうのだ。
「ほんまに助かった。おおきに、おおきに。」
僕はありがとうカードを渡してまた歩き始めた。
いつものようにリズミカルに。
(2017年1月30日)