阪急大宮駅は地下にあるのだけれどとても古い駅だ。
ホームには大きな柱が数本立っている。
点字ブロックギリギリにあるのだけれど、
これは移設できるようなものではないので仕方ない。
僕は白杖でその柱を確認すると内側に回り込む。
線路側はとても狭いので危険だし歩くのも怖い。
僕は白杖で柱を確認しているのだけれど、
見える人からすればぶつかっているように見えてしまうことも時々あるようだ。
今日も柱に白杖が当たった瞬間、誰かが僕の左手に自分の右手を回した。
そして無言で歩き出した。
しばらく歩いてからその人は短い言葉で語りかけた。
「イス、すわる?」
女性の声だった。
「はい、ありがとうございます。」
答えた僕を彼女はイスまで案内してくれた。
アナウンスが電車の接近を教えてくれたので僕はイスから立って歩き出した。
すると先程の彼女がまた僕と腕を組んだ。
ずっと横にいてくれたのだった。
「どこ行く?」
今度はその語り口で彼女が日本人でないことが判った。
「桂までです。貴女は?」
彼女は西院までだった。
僕達は一緒に電車に乗車した。
「私、次おりる。ごめんなさい。」
彼女はそう言いながら僕の手を手すりに誘導した。
先に降りることを申し訳なく思っていてくれることが伝わってきた。
ただの通りすがりの視覚障害の男性、
しかも言葉も的確にキャッチボールはできない状況、
それなのに僕を手伝おうとしてくださっている。
僕は手すりをつかんで、反対の手を彼女に差し出した。
「私、中国人。」
彼女は握手をしながら笑った。
「ありがとう。」
僕も笑った。
言葉があったら伝わりやすい。
でも言葉がなくても伝わることもある。
言葉がいらないこともある。
(2016年11月20日)