北大路駅から地下鉄に乗車した。
乗り込んだらすぐに若い女性が空いてる席に案内してくださった。
僕は感謝を伝えて座った。
四条駅までのひとときをのんびりと過ごした。
わずかな時間だったが安全で安心なひとときだった。
座れるってうれしいなとしみじみと感じていた。
電車が四条駅に到着しホームに降り立った。
その瞬間何故か方向を見失った。
数えきれないほど利用している駅なのだが、
点字ブロックをどちらに進めばいいかが判らなくなった。
年に一度くらいはあることなので対処方法はマスターしている。
動かないこと、
慌てないこと、
気持ちを落ち着かせること、
ゆっくりと音を確認すること、
それでも判らない時は通行人に尋ねること、
それが危険から遠ざかる方法だ。
僕はマニュアル通りに深呼吸をしてから音を聞き始めた。
「何かお手伝いしましょうか?」
突然、若い男性の声がした。
「方向が判らなくなってしまって音を聞いていました。
助かります。阪急へ乗り換える改札口を教えてください。」
彼はサポートを引き受けてくれた。
彼の肘を持った瞬間、安心が僕を包んだ。
階段を上り改札口を出て阪急のホームまで、
僕達は話しながら歩いた。
彼は大学生でアルバイトに向かう途中だった。
「ホームから転落された視覚障害者のニュースを見ました。」
彼はポツリと言った。
その報道が彼の背中を押したのだろう。
別れ際に僕は彼に感謝を伝えた。
「声をかけてくれる人が増えれば転落事故はきっと少なくなります。
ありがとうございました。」
「どういたしまして。」
彼の返事の声がうれしそうに聞こえた。
あらためて報道の力を感じたような気がした。
(2016年10月28日)