「松永さん、かっこいいですね。」
「サングラスがですか?」
僕達は笑いながら話をした。
見えない僕と聞こえない彼女、
僕は声を出して話をしたが彼女にはそれは聞こえない。
彼女は手話で話をしたが僕にはそれは見えない。
手話通訳士が間に入ってくれた。
城陽市で開催された盲聾者通訳介助員養成講座、
僕は講師として彼女は受講生として参加して出会った。
そしてたまたま帰りの電車が京都駅までは一緒だったのだ。
僕達は並んで座った。
彼女は生まれた時から聞こえないのだそうだ。
僕は39歳で失明した。
彼女は見えない世界を想像しただろうし、僕は聞こえない世界に思いを寄せた。
イメージすること、それは人間ならではの素敵な能力だ。
そしてそれによって生まれるのは涙ではなくて笑顔なのだ。
お互いの命を愛おしいと思うからだろう。
「松永さんに来てもらうには講演料は高いのですか?」
彼女は意を決して尋ねた感じだった。
僕には基準も相場もないことを伝えた。
お金はどうでもいいと説明した。
話を聞いてくれた彼女にそんな質問を受けることをとても光栄に思った。
電車が京都駅に着いた。
僕達はしっかりと握手をして別れた。
そして何の違和感もないようにその場を演出してくれた手話通訳士に心から感謝した。
(2016年9月24日)