「これ、読んでください。」
教室を出ようとした僕に少女は点字で書かれた手紙を手渡してくれた。
「うん判った。新幹線の中で読むからね。」
僕は手紙を後ろ手に受け取って歩きながら返事をした。
そして東京へ向かうために京都駅へ急いだ。
この二日間、僕は子供達とたくさんの時間を過ごした。
一日目は視覚障害について話をしサポートの方法も実習した。
二日目の今日はクラス毎に点字を教え、最後の時間は子供達の質問に答えた。
「夢は見るのですか?」
「お風呂でシャンプーは判りますか?」
「趣味は何かありますか?」
「お金はどうやって区別するのですか?」
「散髪はどうしていますか?」
「サングラスをかけている理由を教えてください。」
「服はどうやって選んだりしていますか?」
「食事はどうしていますか?」
「目の不自由な人の職業を教えてください。」
「幸せって何ですか?」
子供達のキラキラした眼差しの中で豊かな時間が流れていった。
子供と大人のはずなのにいつの間にか人間同士として語り合っていた。
京都駅に着いて駅員さんにサポートをしてもらった。
予定の東京行きののぞみに乗車することができた。
座席に腰かけてさきほどの手紙を読んだ。
「てんじを おしえてくれて ありがとうございました
めのふじゆうなかたには こえをかけます
4ねん1くみより」
憶えたての文字が僕の指先で微笑んだ。
僕は車窓からそっと外を眺めた。
いつもと変わらないただ灰色だけの世界がそこにあった。
いつもとほんの少しだけ違うのは、
その向こう側に未来があるような気がしたということだろう。
(2016年9月7日)