先輩は僕よりも20歳くらいは年上だろうか。
知り合った時は視覚障害者とボランティアの方という関係だったが、
いつの間にか人生の先輩と思うようになった。
喫茶店を出た後、
先輩はそのまま帰れば楽なはずなのにわざわざ遠回りしてくださった。
僕を地元の駅のバス停まで手引きしてくださったのだ。
僕は慣れているから大丈夫と幾度か説明したが、
「サンデー毎日だからいいんだよ。」
僕の申し出を受け入れようとはされなかった。
僕を手引きしてどんどん歩いていかれた。
最近は身体の調子もいいとおっしゃったが、
大きな病気もされたし体力が落ちてきておられるのも当たり前のことだった。
暑さもこたえているはずだった。
先輩は黙々と歩かれた。
ホームから改札、駅から駅、そしてまた電車と繰り返した。
長い距離を歩きたくさんの階段を上り下りした。
バス停に着くまでに小一時間はかかっただろう。
やっとバス停に着いてバスの時刻表を確認してもらった。
そして御礼を言いながら右手を差し出した。
握手してもらった。
その手を僕の手はとてもうれしく感じていた。
何故かとうちゃんを思い出した。
とうちゃんは90歳を超えて耳が遠くなっても、
僕の手引きをやめようとはしなかった。
そして手引きされる時の僕はいつも幸せだった。
「まだまだ元気でいてくださいね。」
僕は先輩の後ろ姿に祈った。
(2016年8月29日)