決して几帳面ではないし真面目な性格でもない。
なのについ全力投球で仕事をしてしまう癖がある。
不器用なのだろう。
それぞれの仕事の向こう側に未来が垣間見えることがある。
いつの間にか必死になってしまっているという感じだ。
今日も学生達対象の講座だった。
成長する学生達を実感してうれしくなり、
それぞれのやさしさに触れて幾度も胸が熱くなった。
残務を終えた時には最終バスの時刻を過ぎていた。
タクシーに乗り込んだ。
「お疲れの様子ですね。連日暑いですからね。」
タクシードライバーはそう言いながら走り出した。
「そう見えますか?年齢のせいですかね。」
僕はごまかしながら家までのルートを説明し目印も伝えた。
しばらくタクシーは走り続けた。
「失礼かもしれませんが・・・。」
前置きの後、彼は僕に全盲なのかとか何故失明したのかなどを尋ねた。
会話の中で僕達はお互いに九州出身で同じ酉年だと判った。
「お客さん、私よりだいぶ若く見えはりますよ。」
ドライバーの投げかけに、
「苦労が足りませんからね。」
僕は笑いながら返した。
それから少年時代の話とか故郷の話などに花が咲いた。
共有してきた時代を笑顔で振り返った。
最近報道された視覚障害者のホーム転落のニュースなども話題となった。
結局、元気に今日生きていることが一番の幸せだというところで話は落ち着いた。
家の近くまで着いて料金を精算した。
「ありがとうございました。お互いもうちょっとは頑張りましょうか。」
僕は笑いながら車を降りた。
「お客さん、事故とか気をつけてくださいね。ありがとうございました。」
背中越しに彼の言葉が追いかけてきた。
車が100メートル以上前の交差点で停車した時、
彼がそっとメーターを切ってくれたことを、
僕は最後まで気づいていないふりをした。
勿論彼も何も言わなかった。
しばらく歩いて、タクシーのエンジン音が遠ざかってから、
僕は振り返って深々と頭を下げた。
また明日も頑張れる、
そう思った。
(2016年8月24日)