早朝からエアコンのよく効いているバスに乗車する。
通勤時間帯には少し早いせいか乗客も多い雰囲気ではない。
静寂の中で少し眠気も引きずりながらバスは駅へと急ぐ。
バスが停留所に停車し前後のドアが開く。
乗客の足音よりも早いスピード、大きな音でセミの大合唱の声が聞こえてくる。
乱入してくるという感じだ。
「夏。」
一瞬その単語だけが脳裏に浮かぶ。
ドアが閉まるとそれまでの静寂が戻る。
何事もなかったようにバスは走り始める。
次の停留所に着くとまた同じことを繰り返す。
画像のない僕に夏はしっかりと自己主張をする。
いかにも元気な夏らしいなと微笑んでしまう。
バスが駅に着く頃には僕もすっかり出勤モードになっている。
バスを降りるともう一度セミの大合唱に耳を澄ます。
夏の朝の始まりの中に生きている僕を確認する。
それからおもむろに白杖を握り直して歩き始める。
(2016年7月25日)