桂駅から烏丸へ向かう特急電車に乗車した。
いつもだいたい込んでいる。
ひょっとしたらどこか空いてる席もあるかもしれないのだけれど、
僕には探すことはできない。
入口の手すりを持って立っているのが日常だ。
所要時間は10分程度だから苦にはならない。
見えないから座れないと思うのは悔しいから、
健康増進にいいと自分に言い聞かせて立っている。
もうちょっと老けたらサポートの声も多くなるかもしれない。
自分の容姿は39歳までしか見ていない。
その頃の記憶はほとんどない。
鏡を見る習慣もなかったし、それどころではなかったのかもしれない。
親のアルバムに貼ってあった小学校低学年の頃の写真は憶えている。
我ながら可愛らしい男の子だった。
小さい頃可愛い子は大人になると不細工になると聞いたことがあるが、
そのたぐいだったのかもしれない。
若い頃、容姿を褒められたことは一度もなかった。
「イケメン」なんて単語もなかったし自分自身の興味もなかったのだろう。
だから今でも自分の容姿に興味はないのだけれど、
視覚情報がないせいでの変は避けたいという気持ちは大きい。
顔や衣服に汚れが付着したまま歩いているというのは自分でも嫌なのだ。
知り合いのボランティアさん達にもその時は教えてねと頼んでいる。
自然に社会に溶け込みたいと思っているということだろう。
漠然とそんなことを思いながら立っていたら、
「松永さん、お久しぶりです。宮川です。」
懐かしい男性の声がした。
子供さんが小学校3年生ということは10年ぶりくらいの再会かもしれない。
僕と途中までの経路が同じと確認した彼は、
「途中までサポートします。どうぞ肘を持ってください。」
10年前と同じように申し出てくれた。
「声はちょっとオッサンになりましたね。」
僕は笑いながら彼の肘を持って歩いた。
改札口で御礼を言って別れた時、
彼の笑顔の爽やかさは変わってないなと思った。
爽やかな中年男性、素敵だなと感じた。
僕も爽やかなおじいさんになれるように頑張ろう。
(2016年7月22日)