午前中の長岡京市での講演を終えてすぐに会場を出た。
青森に向かうためだ。
新幹線の時間を考えてサポーターに急ぎ足で動くように頼んでの移動だった。
もうすぐ長岡京駅に着く直前、
「松永さん。」
僕を呼び止める声がした。
あまりタイミングが良くないなと感じながら立ち止まった。
自転車で僕を追いかけてきた彼女の息も少し乱れていた。
「10年くらい前に河原町でお手伝いしたことがあって、
その時ありがとうカードを頂きました。」
彼女はそのありがとうカードを大切にとっていてくれたらしい。
長岡京市の広報で僕がくることを知って講演会場に足を運んでくれたのだった。
講演が終わった後、
それを伝えるために僕を追いかけてきてくれたのだった。
うれしさがこみあげてきた。
10年前のこと、僕は何も記憶してはいない。
単独で移動することの多い僕は毎日のように誰かのサポートを受けている。
見えないで移動するということはそれだけ毎日迷子になったり困ったりしているとい
うことだ。
一日に3人としても年に1,000人、
もう2万人以上の人に助けられたということになる。
気の遠くなるような数だ。
その一人一人がいてくださったから僕の日常が成立したのだ。
タイミングがと感じてしまった自分自身を恥じながら、
「再会ですね。」
僕は白杖を左手に持ち替えて右手を差し出した。
幸せが身体中にしみ込んでいくのを感じた。
一期一会、またいつかどこかで会えたらいいな。
(2016年5月21日)