「山がもえぎいろですよ。」
電車の車窓から見えた景色を20歳の彼女はそう言い表した。
僕は車窓の向こう側に視線を送りながら悪戯心で尋ねてみた。
「もえぎいろってどんな色?」
しばらく考えていた彼女は、
「山がね、新しい緑に衣替えした時の色ですよ。今年流行の春色です。」
そう言って笑った。
僕も笑顔になった。
家に帰り着いてから調べてみたら、
萌黄色、萌葱色、萌木色、茂木色、萌木色、たくさんの漢字が出てきた。
日本の色の種類は400種類以上あるのだそうだ。
あらためて、日本人の繊細な感性がうれしく感じられた。
彼女が僕と初めて出会ったのは中学生の時だった。
僕の目の前がいつもグレー一色だと知って同情したと言う。
可愛そうな僕達のために何かできないかと真剣に考えたそうだ。
その後彼女は僕の著書に出会い、だいぶ考え方が変わったらしい。
サングラスが素敵とか、白杖がよく似合うと表現するようになった。
「こうして1年に一度か二度ですが、
街でお見かけした時に声をかけられるのは私のラッキータイムになりました。
松永さん以外の困ってそうな白杖の人にも必ず声をかけていますよ。
いつまでもカッコよく歩いてくださいね。
もえぎ色のmikuでしたぁ〜。」
彼女から届いたメール、やっぱりもえぎ色だった。
(2016年5月5日)