午前中は休みだったので久しぶりにお昼のニュースを聞いてからゆっくり家を出た。
風は少しだけ吹いていて、お日様もいい感じの光を地上に届けてくださっていた。
いい感じというのは強さも量も丁度ということだ。
失明してもう20年近くもなると、
日々の暮らしの中では目が見えないということを忘れているような感じだ。
きっと視覚以外の五感を使うのが当たり前になっているのだろう。
そしてそれで結構いけるのだ。
気持ちいいなと身体で伸びをしながら歩いた。
それだけでのどかさの中にいる自分がうれしかった。
バス停に着いてまもなくしたら、
「ま・つ・な・が・さーん!お出かけですか?」
女性の可愛い声だった。
バス停の前の団地に住んでおられるとかで時々声をかけてくださる。
バス待ちのわずかな時間に、桜が散ってしまったことなどを教えてくださった。
それから一緒のバスに乗車して空いてる席に誘導してくださった。
そこから先は判らない。
ただそれだけの出来事。
こんな日は春風みたいな人に会うものなんだな。
妙に納得しながらうれしかった。
(2016年4月12日)