「先生、お元気そうですね。」
たまたま他のお客様の見送りで店先におられた店長が声をかけてくださった。
京都の街中ではちょっと人気の和食屋さん、
久しぶりに訪ねたのに憶えていてくださってうれしい気分だ。
「お久しぶりです。店長もお元気そうですね。」
僕も笑顔で挨拶を返した。
僕の記事が掲載されていた月刊誌を読んでくださったご縁で、
先生と声をかけてくださるようになったようだ。
講演をしたりメディアに取り上げてもらったりする中で、
先生と呼ばれることが多くなった。
最初の頃は僕は先生ではありませんと説明したり、
気恥ずかしくて下を向いたりしていたのだが、
いつの間にか違和感を感じなくなった。
慣れてしまったのだろう。
これは僕が先生らしくなったということではなくて、
敬称としては使いやすいものだと判ってきたからだろう。
夜の裏通りのお姉さんから、
「ねえ社長さん!」と呼び止められるのと同じようなものなのだ。
先生と呼ばれてその気になれば、
いくらでも落とし穴があるのは僕でも知っているつもりだから、
いつも自分を戒めることは忘れないようにしている。
店長さんは店に入るとすぐに僕のサポートをしてくださった。
古い町家を手直ししてある店内のとても急な階段を、
僕がおっこちないように支えながら歩いてくださった。
当初は「いらっしゃいませ。」とか「ありがとうございました。」くらいだったのが、
今では普通に普段着の会話ができるようになった。
とても上手とは言えないサポートだけど、
店長さんのやさしさが伝わってくる。
先生でもおじさんでもオッチャンでも何でもいい。
声をかけてもらうというのはうれしいことだ。
サポートを受けられるというのは有難いことだ。
(2016年3月24日)