お兄さんに促された彼女は僕の手をそっと握った。
「ずっと会いたいと思っていました。」
小さな声で控えめな口調ではあったけれど、
何故かつぶやきは僕の心にしっかりと届いた。
僕は照れ臭かったけど感謝を伝えた。
僕と彼女に特別な接点はない。
たまたま僕が出演していたラジオを聞いてからそう思っていてくれたとのことだった。
僕が何を話、それが彼女にどう響いたのかは判らない。
でもそれが希望につながる話しになっていたとしたら光栄なことだ。
12歳で失明してから二十数年を地方都市で過ごしている彼女の人生、
きっと僕には想像できないようなこともあるのだろう。
でも、人間としての思いは同じなのだ。
きっとそれを直接確認するために彼女は京都まで来たのだろう。
「目は見えなくても幸せになろうね。」
自分でも驚くような言葉が僕の口からこぼれた。
彼女は微笑んだ。
妹を京都まで連れてきたお兄さんも微笑んだ。
そして僕も微笑んだ。
(2016年3月18日)