小学校で5,6年生に視覚障害について話をした。
放課後には教職員の研修会に参加した。
たくさんの子供達や先生方と交流ができた。
不思議なもので、こういう場合はどちらかがうまくいくということはない。
いい時はどちらもがいいのだ。
悪いということはほとんどないけれど、
どちらもがとてもいいというのはやっぱりうれしい。
学校を出て地下鉄の駅に向かっていたら、
「今日は本当にありがとうございました。」
通りかかった少年が僕に向かって深々とおじぎをした。
帰宅途中の6年生の男子児童だった。
これが今日の活動の答えだなとうれしく思いながら、
僕は少年としっかりと握手をした。
そして逆の立場だったらと考えたら、
僕に向かって声を出してくれた少年の小さな勇気に教えられるような思いがした。
そんなことを考えながら急ぎ足で駅へ向かった。
山科から新快速電車で新大阪へ行き、
なんとか17時59分発の新幹線みずほに間に合った。
駅員さんに座席まで誘導してもらって、
お弁当を食べてのんびりしていたらウトウトしてしまった。
気がついたら博多を過ぎたあたりだった。
新大阪ではほとんど満席に近い感じだったのに、
夜遅いせいか乗客はまばらになっていた。
車掌さんは僕の近くを通りかかった際、
「御用のお客様はおられませんか?」とおっしゃった。
僕はたいして気にとめてはいなかったのだが、
しばらくしてまた通りかかった際もほぼ同じ場所で同じようにおっしゃった。
車掌さんは僕を見ていてくださったのだ。
僕の周囲にはほとんど人の気配はなかった。
多分車掌さんはそれとなく僕に伝えようとしてくださったのだろう。
車掌さんの一声がどれだけ僕に安心を与えてくれたか、
それは言うまでもない。
たとえ業務でも、ほとんど乗客のいない車中で、
白杖を壁に立てかけているサングラスの中年男性に聞こえるように声を出すのは、
きっとちょっと勇気がいることだろう。
やさしさには、ちょっとした勇気が必要なのだ。
鹿児島中央に到着してパーサーが降車のサポートをしてくださった。
「車掌さんが僕の近くを通る時、御用の方はと毎回声を出してくださいました。
きっと見えない僕に届くようにです。
とても安心できてうれしかったとお伝えください。」
僕も少し勇気を出してパーサーに伝言を頼んだ。
(2016年2月18日)