サポーターの女子学生には申し訳ない気もしたが、
時間がなかったので駅の近くの牛丼屋さんで昼食をとることにした。
入口のレジの横の細い通路を歩きながら、
ひっきりなしにお客さんが出入りしているのが判った。
「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」の声も交錯していた。
店員さんが走り回っているのも伝わってきた。
僕達が座席につくと店員さんは
「ご注文が決まったら声をかけてください。」
とマニュアル通りに言いながらまず女子学生の前にお茶のコップを置いた。
そして次に僕に向かって、
「12時の場所にお茶を置きます。」と言いながらお茶のコップを置いた。
これは時計の文字盤をイメージさせながら場所を伝える方法で、
クロックポジションという専門的な技術だ。
僕はちょっと驚きながら差し出されたお茶をすすった。
きっと笑顔だっただろう。
それから店員さんは、
「点字メニューがなくてすみません。」と付け加えた。
僕は目が見えるサポーターと一緒だから大丈夫と答えた。
また店員さんは走り回っていた。
京都のど真ん中の四条河原町にある店らしく、
英語や中国語のお客さんも多かった。
店員さんはそれぞれのお客さんに的確に対応していた。
牛丼をかきこんでご馳走様をして立ち上がった時、
店員さんが後片付けにきた。
「説明に驚きました。ありがとうございました。」
僕は頭を下げた。
「僕、ホテルマンになるための専門学校に通っているんです。」
店員さんは小さな声でうれしそうにただそれだけを言うと、
丼などの食器を持って奥に消えた。
僕が彼くらいの若い頃、
外国人とも障害者の人ともコミュニケーションをとることはできなかった。
ただ遠くから見るだけだった。
僕はただ素直に店員さんをカッコいいと感じた。
(2015年11月15日)