朝、バス停にたどり着いてから忘れ物を思い出した。
今日は小学校の福祉授業の予定だったので、
子供達に見せてあげようと思って昨夜のうちに準備しておいた点字のトランプを、
机の上に置いてきてしまったのだ。
ほんの数分だったけど、一応取りに帰るかは悩んだ。
面倒くさいという気持ちも少しはあったし、
取りに帰るということで行程が変わってくるのだ。
予定ではのんびりとバスで四条烏丸まで行くつもりだった。
最近時々このルートを使う。
1時間近くかかるので、
座席に座ってノートパソコンをリュックから取り出して仕事ができるのだ。
結構気に入っている。
取りに帰れば、もうバスでは間に合わなくなる。
ラッシュの電車は想像しただけで憂鬱だ。
でも、僕が子供達に出会うのはワンチャンスだ。
どう正しく伝えるかはとても大切になってくる。
点字のトランプは見せてあげた方がいいに決まっている。
結局そう自分に言い聞かせて取りに帰った。
そして、電車に乗る羽目になった。
案の定朝の駅は込んでいて、
電車の中でも僕は入口の手すりを持って立っていた。
電車が烏丸駅に着いて、降りた乗客は一斉にエスカレーターへ向かった。
僕も点字ブロックを白杖で確かめながらエスカレーターへ向かった。
毎回緊張する場所だ。
「改札へ向かうのですか?」
高校生くらいの女の子の声がした。
僕は彼女に肘を借りてエスカレーターに乗った。
リュックサックを背負っていたからきっと学生さんだろう。
僕は安心して改札口までたどり着くことができた。
たった数分間のサポート、
それで僕は気持ちさえもすがすがしくなっていた。
忘れ物をしなかったら出会えなかったすがすがしさだ。
そう思ったら何か得をしたような気分になった。
(2015年10月23日)