朝、団地からバス停までの歩道、
あちこちで虫の鳴き声が聞こえた。
空からは小鳥のさえずりも聞こえた。
昨夜久しぶりにほんの少し降った雨が、
自然界の生き物たちにはプレゼントになったのだろう。
その鳴き声から喜びが伝わってくるようだった。
白杖の僕もなんとなくうれしい気分で横断歩道にさしかかった。
この横断歩道には信号がある。
僕は赤信号で停車したエンジン音が青信号で動き出すのを手がかりで渡る。
いや耳がかりかな。
東西の交通量はそれなりにあるのだけれど南北は少ない。
今朝は南北の音がまったくなかった。
休日の早朝のせいだったのかもしれない。
たまに通過したり停まったりする東西の音だけでは、
青信号のスタートまでは把握できない。
尋ねられる通行人もいない場合、
最終手段は信号無視だ。
一切のエンジン音が近くにないことだけを確認して渡る。
最近はエンジン音の小さな車も多いから慎重に判断しなければならない。
耳の聞く力を全力にしてトライする。
今朝も成功した。
いや失敗は許されない。
横断歩道を渡ってまた歩き出したら、
さきほどの虫や小鳥のさえずりが再び聞こえてきた。
人間の耳って凄いな。
実際にはずっと続いていたはずなのに、
僕の耳はそれを受け付けないでエンジン音だけを聞いていた。
当たり前なのかもしれないけれど、
耳の力に感動しながらの朝となった。
(2015年10月12日)