もう10年くらい前になるだろうか、
たまたま偶然、僕は彼と出会った。
学年は僕がひとつ上なのだけれど、
僕達は同じ故郷の小学校の卒業生だった。
鹿児島県阿久根市立阿久根小学校、
当時でさえ人口3万人くらいの小さな自治体だから、
その卒業生がこの京都で出会うというのは奇跡みたいなものだろう。
それから数年に一度くらいのペースで会っている。
彼は僕を先輩と言いながら立ててくれるのだけれど、
ランチの会計は受け持ったりしてくれる。
僕はちょっと困った先輩なのかもしれない。
今日はたまたま彼が暮らす宇治市で視覚障害者のイベントがあった。
毎年京都府南部の視覚障害者が集まって、
どこかの地域で白杖で行進をするのだ。
今年はそれが宇治市だった。
彼はいろいろな活動をしていて多忙さは知っていたので、
ダメ元で一緒に行進しないかと声をかけてみた。
彼は引き受けてくれた。
僕は彼の手引きで行進に参加した。
「自転車は歩道ではスピードを落とそう!」
「ながらスマホはやめよう!」
「点字ブロックの上にものを置かないでください!」
僕達は声をひとつにしながら歩いた。
視覚障害とは何の関係もない彼も、
僕達と一緒に声を出していた。
僕はなんとなく不思議で、そして幸せだった。
僕達は子供の頃同じ景色を見て育った。
50年前、あの海に落ちる美しい夕日をそれぞれに見ていたのだろう。
僕と彼との接点はただそれだけだ。
ただそれだけで人間同士はつながることができる。
やっぱり人間って素晴らしい。
(2015年10月4日)