見えない僕が外を歩けるのは白杖があるからだ。
白杖を右手で持っておへその前にまっすぐに差し出す。
そして自分の幅よりも少し広めに左右に振りながら歩く。
点字ブロックがある場所では白杖と片方の足で凹凸を感じながら歩く。
白杖はしょっちゅう前方の何かに当たる。
何かが何なのかはほとんど判らない。
一瞬の触覚で判断はできない。
音にもいつも気をつけて歩く。
でもこれにも限界がある。
人の多い場所、音のうるさい場所ではどうしようもない。
結果、白杖が通行人の足に当たってしまうこともある。
申し訳ないと思う。
だから僕は、当たった瞬間謝ることにしている。
「すみません。」
毎日何十回も謝る。
時には電信柱やゴミ箱、不法駐輪の自転車にも謝っているらしい。
いやそちらの方が多い。
最初の頃は恥ずかしさ、照れくささみたいな感情があったが今は平気になった。
見えないから当たり前と開き直ってしまったのかもしれない。
そしていつの頃からか、
しっかりと「すみません。」と声を出して歩く自分が好きになった。
そして「すみません」も「ありがとう」も、
口に出すほど幸せな気分になれる言葉だということも発見した。
見えなくても豊かな人生をおくりたい。
(2015年4月11日)