電車に乗り込もうとしていた僕に気づいた駅員さんが、
僕の手を引いて空いてる席に案内してくださった。
手を引かれると身体は本能的に構えてしまうので、
あまりいいサポートの方法ではないのだけれど、
わずかの距離、しかも座席までの誘導なので僕はそのまま従った。
そして座席に座って感謝も伝えた。
誘導の技術はもうひとつでも、やっぱり座れると有難い。
目的の駅も確認してくださったので、
竹田で地下鉄に乗り換えの予定だけれど慣れているので大丈夫であることも伝えた。
駅員さんは納得して降りていかれた。
いくつかの駅を過ぎて次が竹田駅とのアナウンスが流れた。
リュックサックを背負いなおして準備を始めた僕に、
隣の席に座っておられた若い女性が声をかけてくださった。
「私も竹田で地下鉄に乗り換えるので、よろしかったらご一緒しましょうか?」
駅員さんと僕の会話で僕の乗り換えも知っておられたのだ。
僕はもちろん感謝してサポートをお願いした。
そして安心して歩けるように、今度は彼女の肘を持たせてもらった。
地下鉄でも隣同士に座った。
彼女は解禁になったばかりの就職活動に行く途中のようだった。
大学を卒業してこれからどう生きていくのか、
まさに人生を見つめているところだった
彼女は学生時代にドイツに留学した経験も持っていた。
ミュンヘンの近くだったらしい。
僕も若い頃、バックパッキングでヨーロッパを歩いたことがある。
ミュンヘンの時計台を見にも行ったはずなのに、
画像の記憶は完全になくなっていた。
そのくせ駅前の食堂で食べたソーセージやジャガイモは、
味も映像も記憶にあるから情けない。
そんなことを思いながら、若い人の息吹みたいなものを感じていた。
改札口までサポートしてくださった彼女に、
「素敵な人生を!」
僕はちょっと大げさだけど自然に言葉が出てしまった。
「ありがとうございます。」
彼女も笑った。
春が似合うなって思った。
(2015年3月5日)