電車のドアが開いた音を確認したら白杖で車体を触る。
そのまま白杖を動かして杖先が入り込んだところが乗車口のはずだ。
絶対と言えないのは電車の連結部の可能性もあるということで、
入口の床があるかは必ず確認する。
そこまで確認できたら、今度はホームと電車の隙間を杖先で調べて乗り込む。
たった数十秒の停車時間内に、
乗り降りする他の乗客の迷惑にならないように、
この作業を完結するのは結構高等技術だと思っている。
乗車したら、すぐに入口の手すりを探す。
本当は空いてる席を探したいのだが、触覚で探せるのは手すりくらいだ。
手すりを握った瞬間、安堵して溜息が漏れる。
今日もここまでの作業が無事終わりほっとしたところで、
「座りますか?」
高校生か大学生くらいの青年の声がした。
なぜだか判らないけれど、
バスに比べると電車の中で席を教えてもらうのはとても確立は低い。
「ありがとうございます。助かります。」
僕は喜びを全面にだしてお礼を言って座った。
久しぶりに座れた座席の座り心地をのんびりと楽しんだ。
電車が桂駅に着いた。
僕はこれまた慎重に電車から降りて歩き始めようとした。
「一緒に行きましょうか?」
またまた若い男性の声、
「さっき席を教えてくれた人ですか?」
彼は別人だった。
きっと同じ車両に乗り合わせて一部始終を見ていたのだろう。
「カッコ良かったですね。」
彼はさっきの青年をそう言い表した。
その結果として僕に声をかけることができたのかもしれない。
とても素敵なやさしさの連鎖だった。
僕にとったら、二人ともカッコいい青年だった。
僕は彼の手引きで改札口まで行き感謝を伝えた。
「僕は40歳まで見えていたのですが、
こうしてお手伝いすることができませんでした。
あなた方は素敵ですね。」
言葉がこぼれた。
「お気をつけて。」
背中から追いかけてきた彼の言葉は、彼が笑顔なのも伝えていた。
駅を出たら時雨模様だったが、僕の心はずっとポカポカしていた。
ふと出会ったやさしさの連鎖の結果だった。
(2015年2月19日)