地下鉄の駅の改札口をでて、点字ブロック沿いに歩いた。
地上に向かう階段の上り口に着くと一旦静止し、それから上り始めた。
階段の上り下りでは白杖を身体の前でななめにして使用する。
前から来る人とぶつからないように防御の姿勢となるのだ。
それから、白杖でひとつひとつの段を確認しながら登っていく。
最後の段を確認することでカラ踏みを防げる。
失明後の歩行訓練で専門家に教えてもらった技術だ。
不安もなく見えている時と同じくらいのスピードで上れるようになるのだから、
技術って素晴らしい。
だから僕は、見えなくなって間もない仲間には歩行訓練を受けることを勧めている。
せめて生活圏だけでも単独で動けるようになれば、
生活の質は随分向上するような気がする。
踊場を過ぎた時、
後ろから若いカップルが僕を追い越していった。
「空、きれいやね。」
女の子がつぶやくのが聞こえた。
階段の上の出入り口に空が見えたのだろう。
「そうやなぁ。」
男の子のどっちでもいいような返事が、
なぜか微笑ましく感じた。
クリスマスのせいかなと自分に言い訳をしながら、
残りの階段をきれいな青い空に向かって歩いた。
(2014年12月24日)