「ただいまから、教職員共済生活協同組合、全国労働者共済連合会助成事業、同行援
護全国推進シンポジウムを開催致します。」
僕に届けられた司会原稿はこの挨拶がスタートだった。
京都から東京へ向かう新幹線の中でつぶやいた時は、
3回連続で成功していたのに、
本番では見事にかんでしまった。
記憶力の低さは自他ともに認めているとは言え、
やはりショックだった。
目が見える他のスタッフは、
丸の内のビルの22階の会場からスカイツリーがはっきり見えると喜んでいたが、
僕はそれさえも、何か損をしたような気分だった。
下手ながらになんとか大役を果たし、
東新宿のホテルにチェックインしたのは20時を過ぎていた。
明日からは三日間のガイドヘルパー指導者研修会の講師、
その翌日に都内の大学での講演をすませて帰京の予定だ。
四泊五日ということになる。
初日からへこんでいる訳にもいかない。
夕食だけかきこんで、早めにベッドにはいろうと考えて、
ホテルのレストランでカレーを注文した。
ライスとカレーが別々の容器で運ばれてきた。
僕は運んできた若い男性に、
「カレーをライスにかけてください。」とお願いした。
彼が少しずつカレーをかけている雰囲気が伝わってきた。
「僕はセンスがないので上手にはかけられませんが、おいしく食べてくださるように
心をこめました。どうぞ。」
彼はカレーの入っていた容器だけを持って、照れ笑いを残して戻っていった。
司会が上手にできなくてちょっと落ち込んでいた自分が、
なぜか阿呆らしくなった。
おいしいなと思いながら、黙々と食べた。
忘れられないカレーライスになるなと思った。
僕もセンスがないけど、
心をこめて頑張ろう。
(2014年11月29日)