この一か月は空を眺める余裕もなく、落ち葉に思いを寄せることもできなかった。
記憶ができないほどの混乱した時間が過ぎていった。
父が入院してからの一か月、
たまには病院に泊まりながら、
いくつかの仕事もキャンセルしながら、
僕はただただ祈りながら日々を過ごした。
ベッドの父に、数えきれないくらい幾度も、
「とうちゃん」と話しかけた。
数えきれないくらい幾度も、
とうちゃんの手をにぎった。
93歳のとうちゃんの前で、
57歳の僕は情けない少年だった。
泣きべそをかきながら、何度も立ちすくんだ。
願いは届かなかった。
その瞬間、本当に僕の身体と心は凍りついた。
頭では判っていても、判る自分を許せなかった。
見えないことが、見なくていいことが、
少し救われているような気さえした。
こんなことでは、またとうちゃんに叱られる。
だからきっと、それなりに超えて生きていくだろう。
平穏を取り戻すだろう。
この前までとうちゃんと歩いた道を、今日一人で歩いた。
北風が吹き抜けていった。
今日は立冬らしい。
(2014年11月7日)