白杖を左右に振りながら、
バス停に向かって歩く。
最寄りのバス停には点字ブロックが敷設されているので、
見えない僕にはそれが目印となる。
耳は前方から来るかもしれない自転車の音に注意しながら、
足の裏では点字ブロックを探しながら、
それなりの集中力を使っているのだと思う。
バス停にたどり着いたらちょっとほっとする。
「おはようございます。」
ほっとしている僕を気持ちのいい挨拶が迎えてくれた。
「おはようございます。」
僕は持ち主が誰かも判らない声に向かって返した。
彼女の説明では、このバス停で出会うのがもう幾度目からしい。
声だけではなかなか記憶できないことを詫びながら、
街路樹の様子を尋ねてみた。
「丁度、それを説明しようかと思ったんです。」
彼女は微笑んだ。
僕達は家族でも幼馴染でもない、いわゆる他人同士だ。
秋の始まりの中に笑顔の僕達がいた。
人間同士の絆の薄さやはかなさを、
社会は時々切り取って伝えようとする。
でもね、豊かなんですよ、人間の社会。
街路樹の秋色の移ろいを、見知らぬ人同士で味わえるんですからね。
(2014年11月2日)