5月29日19時、神戸港から乗船したサンフラワー号は、
瀬戸内海をゆっくりと西へ向かった。
夕方まで大学の授業があった僕が、
30日の10時から大分市で始まる会議に出席するには、
この方法しかなかった。
天候が荒れないことを祈りながら、当日を迎えた。
穏やかないい天気だった。
日頃の行いのたまものだなと、
密かに微笑みながら船旅を楽しんだ。
甲板で潮風に吹かれながら、
失明が刻々と迫っていた頃を思い出した。
その頃、この船で旅をした。
深夜の瀬戸大橋のイルミネーションが、
もうほとんど見えなくなっていた僕の目に、
微かに映っていたのを記憶している。
あの時、もう見えなくなるという現実にうちのめされそうになりながら、
その灯りを悲しく受け止めた。
15年の歳月が流れた。
イルミネーションの微かな灯りの思いでさえが、
今は僕の中でやさしく横たわっている。
あの頃、俯き加減だったかもしれない僕が、
今はもう何も画像はなくなったのに、
すがすがしい気持ちで風に吹かれていた。
海を見つめ、空を眺め、潮の香りをかぎながら、
生きていること、生かされていることに自然に感謝していた。
この15年は、障害を乗り越えて、
そんな勇ましいものではなかった。
悲しんだり、苦しんだり、怒ったり、その連続だったのかもしれない。
光に未練はないかと尋ねられれば、
間違いなくあると答えるだろう。
見えるようになりたいかと問われれば、
勿論とうなづくだろう。
ただ、15年前には決して堂々と言えなかった言葉、
今は、笑顔で、心を込めて言えます。
「僕は、幸せです。」
あらためて、出会ったすべての人達に感謝申し上げます。
(2014年6月3日)