7年ぶりの少年

駅のホームで声をかけてくれた若者は、
出身の小学校名と自分の苗字を名乗った。
彼の手引きで歩きながら、
彼が名乗った苗字につながる名前が、
僕の深い記憶の中から蘇った。
「こうた君か?」
彼に確かめたら、記憶は正しかった。
僕の記憶の中にあった少年、
彼が10歳の時に福祉授業で数時間会っただけだったが、
その授業の後に、メールでメッセージを届けてくれたのだった。
「僕は一生、点字ブロックの上には自転車を止めません。約束します。 こうた」
短いメールだったが、
少年の純粋で強い決意は、
紛れもなく、見えない世界で生きていく僕達へのエールであり、
当時の僕をとても幸せな気分にしたのだった。
17歳になった彼は、
僕の身長を超え、声も大人になっていた。
僕達はまるで親友との再会のように、
何度も強い握手をした。
社会にメッセージを届ける活動、
きっと未来につながっていくと信じてやっている。
でも、根拠もないし、確乎たる自信もない。
しかも現実は、なかなか目に見えるような変化が起こっているとも思えない。
ひょっっとしたら、僕の希望にすぎないのかもしれない。
「今も、小学校などに言っておられるのですね。」
別れ際の彼の言葉は、
その意味を伝えて、僕の心までを手引きしてくれたように感じた。
一日に5万人以上の人が利用するこの駅で、
今度彼に会えるのはいつになるだろう。
その時も、活動を続けている僕でありたいな。
いや、少年も一生の約束をしてくれたのだから、
僕も頑張らないとな。
(2014年5月9日)