駅のホームで声をかけてくれた若者は、
出身の小学校名と自分の苗字を名乗った。
彼の手引きで歩きながら、
彼が名乗った苗字につながる名前が、
僕の深い記憶の中から蘇った。
「こうた君か?」
彼に確かめたら、記憶は正しかった。
僕の記憶の中にあった少年、
彼が10歳の時に福祉授業で数時間会っただけだったが、
その授業の後に、メールでメッセージを届けてくれたのだった。
「僕は一生、点字ブロックの上には自転車を止めません。約束します。 こうた」
短いメールだったが、
少年の純粋で強い決意は、
紛れもなく、見えない世界で生きていく僕達へのエールであり、
当時の僕をとても幸せな気分にしたのだった。
17歳になった彼は、
僕の身長を超え、声も大人になっていた。
僕達はまるで親友との再会のように、
何度も強い握手をした。
社会にメッセージを届ける活動、
きっと未来につながっていくと信じてやっている。
でも、根拠もないし、確乎たる自信もない。
しかも現実は、なかなか目に見えるような変化が起こっているとも思えない。
ひょっっとしたら、僕の希望にすぎないのかもしれない。
「今も、小学校などに言っておられるのですね。」
別れ際の彼の言葉は、
その意味を伝えて、僕の心までを手引きしてくれたように感じた。
一日に5万人以上の人が利用するこの駅で、
今度彼に会えるのはいつになるだろう。
その時も、活動を続けている僕でありたいな。
いや、少年も一生の約束をしてくれたのだから、
僕も頑張らないとな。
(2014年5月9日)