久しぶりに立ち寄ったトンカツ屋さん、
入口の判らない僕は、
道行く足音に向かって声を出した。
「トンカツ屋さんの入口を教えてください。」
すぐに立ち止まってくださったご婦人は、
「ここのトンカツおいしいよね。」
そう言いながら、たった数歩、僕を手引きしてくださった。
つまり、僕はほとんど入口に近い場所から声を出していたのだ。
ご婦人は、入口がすぐそこなんておっしゃらなかった。
見えないということを、理解してくださっていたのだろう。
店員さんがサポートしてくださるのを見届けて、
ご婦人は立ち去られた。
トンカツ屋さんには、いつもの店員さんがおられた。
ランチの説明をしてくださり、
申し訳なさそうに、消費税で値上がりしたことも付け加えられた。
器にソースを入れ、ゴマを入れ、御飯にお漬物を載せてくださった。
さりげなくて確実なサポートには、
いつも上品さが漂っている。
「何かあったら、何でもおっしゃってくださいね。
どうぞ、ごゆっくり。」
僕は、本当にゆっくりのんびり、ランチを楽しんだ。
「ここのトンカツおいしいよね。」
ご婦人のやさしい言葉を思い出しながら、
胃袋だけでなく、心までが満足していた。
食事が終わると、
店員さんは、僕の向かう横断歩道まで手引きしてくださった。
横断歩道の点字ブロックに着くと、
「また、立ち寄ってくださいね。」
笑顔で会釈された。
笑顔が、5月の爽やかな風にとても似合った。
(2014年5月3日)