ふらっと立ち寄ったさわさわ、
僕の向かい側の席で、先客がカレーライスを食べていた。
その香りにつられて、僕もカレーライスを注文した。
幾度食べても、やっぱりおいしい。
「おいしいですね。」
僕は何気なく、カレーライス仲間に話しかけた。
「辛くて、鼻をすすっています。」
彼女は笑った。
埼玉県からの旅人だった。
ウィークリーマンションに滞在して、
のんびりと京都を楽しんでいるとのことだった。
どこの桜を見たかとの僕からの質問に、
いくつもの京都の地名が出てきた。
30年以上暮らしている僕よりも、
ずっと京都に詳しく、
そして、京都が好きだということも伝わってきた。
頑張って働いて、
少しお金を貯めて、
そして旅に出ているのだそうだ。
きっと旅の中で、彼女は豊かな時間を過ごしているのだろう。
言葉の端々に、それが感じられた。
何かとても、うらやましくなった。
たった一度の人生、
見えるとか見えないとか無関係に、
豊かに過ごしたいよな。
波の音を聴きながら、
のんびりと老いていきたいと、
漠然と思ったりしている。
今度思い切って、旅に出てみようか。
若いころ、目が見えていた頃、
リュックサックを背負って、
鈍行列車に乗車してあちこちを旅した。
勿論、その時の風景は、
思い出の中で、僕の宝物になっている。
またどこかで、豊かな香りや音が、
僕を待っていてくれるかもしれない。
(2014年4月18日)