「あっ・・・。」
彼女は小さな声を出しながら、
四条木屋町の近くのコンビニからのルートを少しはずれた。
手引きされている僕もつられて動いた。
彼女は、高瀬川沿いの桜の前で立ち止まった。
彼女の肘をつかんでいた僕の左手をそっと持って、ゆっくりと動かし始めた。
その動きは、まるでスローモーションのようだった。
やがて、僕の指先に、ふくらみかけた桜のつぼみが触れた。
「数厘だけ咲いています。」
花びらのやさしさとは違う、
柔らかな強さが伝わってきた。
春が始まったのだ。
自然と背筋が少し伸びた。
顔が上向きになった。
また、新しい始まりの季節なんだな。
僕もまた、心新たに生きていこう。
(2014年3月28日)