階段の手前で声をかけてくださった女性と、
僕の行き先の駅は同じだった。
彼女は、目的地の河原町駅までのサポートを快く引き受けてくださった。
電車が到着するまでの数分間、
僕達はホームでいくつかの会話をまじわした。
少し暖かくなってきたとか、もうすぐお彼岸だとか・・・。
「私は福井県出身なので、春彼岸にはあまり縁がなかったような気がします。」
春彼岸、響きのいい言葉だった。
やがて電車が到着し、僕達は乗車した。
車内は少し混雑していた。
彼女は僕の手を取ってつり革を持たせた。
次の駅で座席が空くと、今度はそこに座らせてくださった。
長身の彼女の控えめな言葉と動きが、
とても上品に感じられた。
座席に座っている間、
僕は満ち足りた気持ちになっていた。
ふと、見えている頃、職場の職員旅行で訪れた福井県を思い出した。
東尋坊、永平寺、芦原温泉・・・。
ひとつひとつの風景までもが蘇った。
それぞれの映像は、とてもやさしかった。
河原町駅に着くと、彼女はエレベーターを探して、
改札口まで誘導してくださった。
たった10分程度、サポートをしてもらっただけでなく、
何か素敵なプレゼントをいただいたような気になった。
毎日のように、やさしい人達に出会える。
いろんな見方はあるのだろうけれど、
僕にとっては、豊かな社会だ。
そして、それを感じられるから、こうして一人で街を歩けるのだろう。
豊かな社会に、心から感謝したい。
(2014年3月18日)