久しぶりに、東山にある和食の店「阿吽坊」で食事をした。
年に幾度か訪れる店だ。
格子戸をくぐり抜けて、石畳を歩く。
玄関の土間で挨拶をして、
座敷にあがる。
入り口の近くの火鉢の炭火に手をかざして、
少しだけ暖をとる。
それから、案内された掘りごたつの席に座る。
ゆっくりと時間が流れていく。
僕よりはだいぶ若いおかみさんの、
いつものやさしい声がする。
僕にそれぞれの器を触らせて、
それぞれの料理の説明をしてくださる。
急ぐわけでもなく、かと言って、料理がさめるようなこともない、
あらかじめ、僕の耳から脳に伝わるスピードを知っているような、
ほどよい言葉の数と速さ。
ひとつひとつの味に、
ため息がこぼれる。
外は、名残の雪が舞っている。
僕の口の中では、竹の子の苦味がほの甘い酢味噌に溶け込む。
こういう瞬間を、しあわせって呼ぶのだろう。
見えるとか見えないとか無関係に、
無条件に、幸せになっている。
幸せになりたい方、どうぞ、格子戸をくぶってみてください。
(2014年3月7日)