一日中雨が降っていた翌朝、
僕はタクシーに乗っていた。
もう雨は降っていなかったけれど、
どんな天候なのか判らなかった。
慌てていて、気持ちのゆとりもなかったし、
ニュースの天気予報も聞きそびれていたからだろう。
協会の新年祝賀式、10時半にはギリギリ間に合うかなというタイミングだった。
僕からは何も言わないのに、運転手さんは、
空いてそうな道を選んで行くとおっしゃった。
まるで、僕が急いでいるのをお見通しのようだった。
そして、交差点を曲がる時、
その場所と東西南北、どちらに曲がったかなどを、
これまた、そっと伝えてくださった。
きっと急いでくださっていたのだろうが、
そういうことも感じさせない運転のテクニックだった。
慌てていた僕の気持ちは、少しずつほどけていった。
ふと、右側のガラス越しのぬくもりに気づいた。
お日様だ!
「天気は回復したのですか?」
僕はそっと尋ねた。
「1時間程前に、ほとんど雲はなくなりました。
今は、一面のみずいろの空です。」
「ありがとうございます。」
教えてくださったこと、伝えてくださったこと、
説明してくださったことへのお礼の言葉だったが、
あえて理由を付け加える必要もなかった。
みずいろの空の下を、僕の乗った車が走った。
その後も、運転手さんは、ルート説明を続けられた。
タクシーが目的地に到着した時、
僕達はお互いに笑顔で、
「ありがとうございます。」を言い合った。
タクシーを降りて時間を確かめたら、
10時20分だった。
僕は数歩歩いて、そして立ち止まって、
空を眺めた。
みずいろの空を見ながら、深呼吸した。
そして、独り言をつぶやいた。
「ありがとうございます。」
(2014年1月10日)