「松永さん、お久しぶりですね。鎌倉の・・・」
電話の向こう側の声、
氏名を名乗られて、
記憶が蘇るのに数秒かかった。
でも数秒で、
数年前の、しかもお会いしたのはたった一度きりの彼女を思い出すことができた。
彼女は、鎌倉市の中学校の教師だ。
僕の著書「風になってください」を読んでくださり、
中学校の講演に招いてくださったのだった。
講演後、彼女と同僚の先生との二人が、
わざわざ休暇をとって、
僕を市内見学とドライブに連れていってくださった。
鎌倉大仏の参拝では、
大仏様を触らせてくださったし、
江ノ島では、波の音を聴きながら遊歩道を散策した。
露天のイカ焼きをご馳走になりながら、
豊かな光の中の爽やかな潮風を記憶しているということは、
きっといい天気だったのだろう。
京都から日帰りの慌しい行程だったはずなのに、
記憶ではスロウな時間が流れているのは、
潮風が運んでいたのどかさのせいなのだろう。
思い出をやりとりした後、
「道徳の研究授業で、著書の中のクリスマスブーツを使いたいと思っているので
すが、
許可をいただけますか?」
彼女が切り出した。
光栄ですと、僕は即答した。
著書が、山口県の高校の読書感想文の推薦図書になったことがある。
和歌山県立医科大学の入試問題として使用されたこともある。
音訳図書にしていいですかなどの問い合わせも、
いくつもある。
活字が、僕の思いをのせて、あちこちを旅している。
とても幸せなことだ。
読んで欲しいから書いたのだ。
活字も講演も、このホームページも、
見えない僕達と見える人達と、
共に暮らす社会を願っての発信だ。
大切なのは、読んでくださったことへの感謝、
聞いてくださることへの感謝、
見てくださることへの感謝だ。
今日も、これから京都の中学生に会いに行く。
感謝をこめて、未来の大人達へ語りたい。
(2013年12月13日)